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「悔しい」

僕の暮らすこの界隈でも、この3月11日に反原発のパレード、昔風に言えばデモがあった。主催したのは「4月3日の広場」。このパレードの後、映画「日本と原発」の上映会があった。この映画は福島原発告訴団の弁護団代表の河合弘之さんが監督したもの。

この「日本と原発」の中で一番僕に届いた言葉、それは浪江町の町長、馬場 有さんの言葉------

「悔しい」

浪江町は今も放射線量が高く町の多くの地域が帰還困難地域。おそらく今後避難の解除がされるとはとても思われない。現在、役場は二本松市に避難している。

ここに住んでいた人たちの声を町長は涙を堪え、自身の思いも込めて「悔しい」と言ったのだった。悲しいでもなく、辛いでもなく、一言「悔しい」と言ったのである。

原発震災によって、放射線に被爆し、将来に亘って健康不安にさいなまれ続ける人たち。

長年住み慣れた家を故郷を着の身着のまま追われた多くの人たち。

職を失い、新たな収入を得る道を今もって見つけることが出来ない、多くの人たち。

津波によって命を失った家族への思いを抱き続けながらも、何とか前を向いて、健気に生活して行く人たち。

近くの知人や友人たちとも引き裂かれ、どこに行ってしまったのか、その消息すら今もわからないままの人たち。

些細なことから、将来の事まで、ちよっとした事をきっかけに諍いが始まり、家族関係が壊れ、バラバラに暮らすしかなくなってしまった多くの家族。

あちこちの避難所を転々としながら、やっとたどり着いた仮設住宅。衝立で仕切られただけの体育館などの避難所に比べれば、隣家の音がまるまる聞こえてしまうとしても、プライバシーは少しは保てるから、いくらかは気を休めることができると、自分に言い聞かせる人たち。

もともと仮設住宅は設計上、2年間と言う耐用年数しかない上、施行のいい加減さから、床が傾いたり、建て付けが悪いので、隙間風が通り抜けたりする。そのうえ、耐用年数を過ぎた仮設住宅は時に雨漏りが始まる。その場かぎりの正に仮設としか言いようがない所でも、雨風が凌げれば良しとして、そこに留まって暮らさざるを得ない多くの人たち。

厳しいとしか言いようがない避難生活の中で、持病を悪化させ、亡くなってしまった人や誰にも気づかれずに亡くなった人たち。

将来を見つめることができずに、自死する道しか残されていないと思い詰めてしまった人たち。

あろうことか、まだ被災者ずらしているのか、たっぷり保障金をもらったんだろう、と言う影の声が被災者をさらに追い詰める。

自らその道を選んだわけではない。もとより好き好んで選んだわけではない。すべては原発震災がもたらし、強いられてしまった結果なのだ。

にも関わらず、東電や政府は今もって自らの責任を誰1人としてとろうとはしない。すべてを津波のせいにして。それどころか、各地の原発の再稼働を画策し、あまつさえ海外への原発の売り込みを官民あげて企てる。

浪江町の馬場町長は2014年1月25日の青森の講演で、「私どもの基本的人権は全て失われている」として、その悔しい思いを語っている。憲法の条文をあげ「私たちは幸福を追求してはいけないのですか」「私たちは最低限の生活をする権利を持ってはいけないのですか」と。

浪江町は東電福島原発のある町----1~4号機がある大熊町と5~6号機がある双葉町----に隣接していながら、原発立地の直接的な自治体ではなかったから、東電や政府からの事故連絡はまったくなく、頼りにしたのは役場にかろうじて残っていたテレビのみ。つけっ放しにしたテレビの報道によって原発の爆発を知り、緊急の行政無線で当初は10キロ、次は20キロと、町民に避難を呼びかけ----町民は何も持てず、着の身着のまま、ひたすら遠くを目指して、逃げて行く。

「悔しい」

この一言に込められた思いを理解するのはそう容易い事ではない。原発震災を被った人にしか、理解できないことなのかもしれない。「そう簡単に理解されてたまるか、お前らに解るはずはない」----想像するに難しくはない。
それでも彼ら被災者の気持ちとの距離を縮め事が出来るとすれは、僕らにただ一つ残されているのは想像力をおいて他にない。あるいは今度は自らが原発被災者になることによってなのだろうか。

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4月3日の広場のHPは以下を参照。
http://space43.blog.fc2.com/

2015年3月11日のパレードは以下参照。
https://www.youtube.com/watch?v=Ldd5oDwwXW8&feature=youtu.be

福島原発告訴団のHPは以下を参照。
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/

映画「日本と原発」の公式HPは以下を参照。
http://www.nihontogenpatsu.com/team

浪江町の町長の青森講演は以下を参照。
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/122495

by kyureki | 2015-03-15 23:39 | 反原発